10.「中国知的財産」関連事業を始める

  1995 年から中国特許関連の仕事を始めた。なぜ中国特許関連の事業に乗り出したのか、その理由はたいして深くない。発明くんが、古き中国文化に憧れ、なんとなく中国が好きになっただけのことである。多分、父親の遺伝子を引き継いだのかもしれない。

  親父は馬賊の親分になりたくて中国大陸へ渡るため、当時の「関釜連絡船」の出航地であった下関に流れ着いたと聞いている。ところが、何やらゴタゴタとしているうちに終戦を迎えてしまった。馬賊の夢が破れた父親は「これも何かの縁だろう」と下関永住を勝手に決めたが、そのあとは家族 5 人を残して蒸発したのである。

  発明くんは、親父(顔も知らない)が憧れたという中国大陸について子供の頃から関心を寄せていた気がする。読み物は三国志や史記、そして漢詩や古典(論語・菜根譚)が好きである。掛け軸で見られる山水画、書法(書道)も大好きである。日本は、3000年前に中国で発明された漢字の影響を受けながら、日本特有の「美・徳」を築いてきたことは間違いない。中国に関心を持つのは当然か。話が思わぬところへ脱線して申し訳ない。話を元に戻そう。

  発明くんが初めて中国を訪問して、情報を仕入れてきたのが1995年である。日本アイアールが中国に関心を寄せたのは1990年に中国人留学生の秦さん(物理専門)の入社が大きな「きっかけ」となった。秦さんの“この日本特許明細書を中国語へ翻訳することは難しい。日本企業さんは大丈夫でしょうか”という率直な疑問からである。

  その後、中国の仕事は 1999 年、北京に現地事務所を開設することで本格的にスタートした。現地事務所社長の張さん(北京外語大日本語学科)は、発明くんが中国特許視察ツアー(1995 年ダイヤモンド社主催)でお世話になった時の通訳である。このツアーで、“中国とのビジネスは中国人でなければ無理だ”とそんな確信を持った。

  張さんとは約 1 週間の付き合いであったが、日本語能力の高さはもちろんのこと、素朴で思いやりのある人柄にスッカリ惚れてしまった。張さんをスカウトして、日本へ連れて帰ることを勝手に決めた。やっとその気にさせて 1996 年の秋に当社へ入社することになった。「それにしても、よく決断をしたものだ」と思う。張さんの勇気とチャレンジ精神を、ずーと尊敬し続けている。

  当社の中国事業のクライアント第 1 号は、静岡の会社である。 この会社の知財部長は大いに変わっているが、実に豪快な人であった。 “我が社が気にしている「中国特許・実用新案」の継続調査 (毎月定期的)したいのだが現状では何処の業者に頼んでもロクな結果しか出ない。どうせ駄目ならお前さんのところに発注する。 その代わり早くノウハウを吸収して真っ当な調査ができるようにしろ。うちの仕事で得たノウハウは、知財業界にお返ししろ” というお達しである。定期的な中国特許調査と翻訳(中→日)の仕事をこなすことで、中国特許調査と翻訳の能力が高まった。

  一方、中国特許の出願受託は 2007 年に開始した。日本国内で中国弁理士と発明者が直接打合わせをしながら、強固な「中国特許明細書」を作り上げるというビジネスモデルである。これで、高品質の「中国特許明細書」を作りあげることができる。ただ、この方法は量産ができない。

  中国弁理士 王さんとの付き合いは、中国特許視察ツアーで中国国際貿易促進委員会専利商標事務所(CCPIT)へ表敬訪問した時以来である。CCPIT日本部の創設メンバ ーの一人で、大変な実力者である。王さんがCCPITの日本事務所へ着任されてから本格的なお付き合いが始まった。

  王さんは、日本から出願された「中国特許明細書」の惨状には酷く心を痛めていた。日本企業が中国弁理士に対して翻訳の不信感を抱けば、それは自分への不信感にもつながっていると考えていた。“自分を必要としてくれる日本企業があれば、最善を尽くしたい”これは王先生の信条であった。

  張さんと王先生は、将来どうなるか分らない、明日も知れない零細企業である日本アイアールを、信頼してくれた。中国には、「仁・義・礼・智・信」という諺がある。「仁」は相手の生活が成り立つことを優先すべきである。「仁」だけは、何とか守りぬきたいと固く決心した。

ー中国関連:「追記メモ」ー

  2007年12月18日(火)、テレビ東京(ワールド ビジネス サテライト:WBS)で日本アイア ールが紹介された。「アジアに於けるニセブランドの実態と知的財産をまもる術はあるのか?」

  「世界で通用する、戦える特許明細書を作る」が日本アイアールのコンセプトである。中国弁理士 王さんがクライアントを訪問し、現物の機械装置を動かしながらの聞き取り様子が詳しく紹介されていた。

(*)【知財関係者からのお便り】:「WBS」拝見させていただきました。特許明細書の品質や翻訳の品質が多少なりと もテレビ番組で取り上げられたのは,初めてではないでしょうか?正直驚きました。多くの一般の人が見るテレビ番組なので、もっと一般的な模倣品の話ばかりだろうと、想像していました。


発明くんイラスト