3.米国のチャレンジ精神と独創性が生まれる背景
私はアメリカのチャレンジ精神の、独創性の背景にはいつも レイオフされるか分からないという緊張感が横たわっているからだと思う。つまり、独創性の裏側にあるのは忠誠心とリストラの背中合わせ、だと思っている。
日本がもし、もっと独創性に富んだ人間が必要だと思ったら終身雇用制をやめるのが一番の近道だ。しかし、そんなことをすれば従業員の企業に対する忠誠心がなくなってしまう。 それが証拠に、いまの私にはB社に対する忠誠心などない。T社にいた時はそうでなかった。
いつでもレイオフができる社会になったら従業員の企業に対する忠誠心がなくなる。従業員を信頼できなくなると、企業として従業員に必要な情報を十分に与えることができなくなる。みんなが必要な情報を共有してこそ良いアイデアが生まれるし、チームワークも生まれ、使命感や達成感を意識できる。これがなくなったら企業の研究開発にとって大きな痛手である。日本は、個人のスタンドプレー的な独創性よりも、皆で情報を共有して安心して仕事ができる国であり続けて欲しいと思う。しかし、この思いは届かないだろう。
4.優秀でハングリーな人材が集まる米国の強み
このアメリカの、レイオフされるかもしれないという緊張感は、人種間の緊張によって加速されている。アメリカでは人種差別をしてはならない事になっているし、人種差別はない事になっている。しかし、そんなことは無いことは今さら言うまでもない。
こういった感情は裏を返せば、白人系のアメリカ人が黒人、アジア系アメリカ人に対して強いプライドを持っている事につながる。だから、ただプライドだけでなく実力でも決して負ける事のないように、白人系のアメリカ人は努力する。そしてまた、白人系以外のアメリカ人も少なくともかなりの部分の人たちは、諦めることなく負けるものかと努力する。
一方、世界には様々な問題を抱えた国が沢山ある。それらの国々から、優秀でハングリーな人材がアメリカにはどんどん流れ込んでくる。白人系アメリカ人が危機感にかられて、プライドにかけて努力しない訳がない。
5.「ディジタル技術」と「アナログ技術」の共存で勝負する
アメリカ生まれのIT技術の領域では、日本は勝てない。既に手遅れかもしれない。だが、その領域を上手くうまく使い熟すことでなんとか互角にまでは持ち込まなければならない。そうでないと、何もかもアメリカに全部負ける。日本は、この領域について強く意識し、日本流に作りあげ、活かすべきだと思う。
もう一つ日本がアメリカに優っている点は、企業に対する従業員の忠誠心の高さだ。従業員が信頼できなければ、情報の共有などというものは技術的にはできたとしても、危なくて実行できるものではない。
そして従業員の忠誠心とモラルとがいかに大切であるかを見過ごして、我も我もとリストラに走っている企業が多い。これは間違いなくじわじわと企業をだめにし、日本をだめにする。これは現実にアメリカの企業の中でドラスティックなリストラを何回か体験した私の実感である。(故:久里谷美雄))
