5.「特許公報複写サービス」で、なんとか食いつなぐ

  「情報機材部」の販売代理店になった迄は良かった。しかし、日本アイアールの経営は厳しかった。「情報機材部」の商品だけでは思うように売上げが伸びない。日本アイアールを存続させるには当面、食べていけるネタを探さなくてはならない。

  日本アイアールの自立を考えていた部長は、リコー本社特許部に声を掛けてくれた。リコー特許部は、特許公報(公開・公告・実用新案)の合本と「情報機材部」から購入したマイクロフィルム版を保管し大きな書庫を持っていた(*)。必要な特許公報があれば、その都度、特許部員がコピーをしていた。現場の技術者がコピーを取りに来ることもあった。
(*)当時はリコー特許部だけでなく、多くの会社がこのような状態にあった。

  要するに特許部員や現場技術者の手を煩わしている特許公報の複写や関連資料の複写業務を「社内外注化」し、特許部員達や現場の技術者達の負担を軽くして、それぞれが本来の業務に注力すればするという改革案でもあった。

  リコー特許部は、信頼できる業者であれば、という条件で受け入れることにした。日本アイア ールは、常駐の社員を派遣して、リコー特許部の特許公報の複写業務を請け負うことに成った。

  特許公報の複写業務の請負をキッカケとして、リコー特許部とのお付き合いが深くなった。特許公報の複写サービスだけでなく、特許部が抱えている特許公報の編集作業(*)も手伝うようになった。
(*)特許公報をバラして、特許調査(手捲り)が、やり易いように特許分類ごとに仕分けする作業のことで、この資料が整うことで特許調査の精度と能率が格段と上がった。

  仮に特許部員が、これらの作業をやると成れば膨大な負担となり費用対効果が疑われる。日本アイアールは、特許部員から喜ばれ、マネージャーからも感謝された。このような業務を請け負うことで、日本アイアールは、日本企業の特許部は、どのような仕事をする部門で、どのような問題を抱えているかを教えてもらったことに成る。

  日本アイアールが、リコー特許部からの請負業務が定着すると、発明くんは日本アイアールの担当を外れ、「情報機材部」の単なる営業マンに戻った。営業ノルマの不達成は、とにかく謝 って凌ぐしかない。しかし、正直、肩の荷が下りた。